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2017年1月 9日 (月)

トムエイブラハムソンを追悼する

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中山蛙さんからの報道によるとカナダのラピッドワインダーの創始者トム エイブラハムソンさんが亡くなったとのことである。

私の場合は実際にトムに会うよりも前にトムの作ったラピッドワインダーに会っている。

それは1988年だったかドイツはケルンのフォトキナの取材中に大聖堂の脇にくっついてできている小さなカメラ屋さんでブラックのリーペイントのライカのM3に怪しげな手作りのライカビットが付いているのを発見した。

当時私は名うての中古カメラバイヤーであったから、最初に店員さんと交渉したときには以下の言葉を発したのだ。
「あそこにあるあのライカは売らないんだろう?」

これは一種のフェイント作戦である。店員さんはお客さんちゃんと売りますよと言った。
またユーロになる前でドイツマルクでいくらだか忘れたが1,000マルクはしなかったと思う。私の本で初版が2万部と言うベストセラーになった「間違えだらけのカメラ選び」の表紙にそのトムのラピッドワインダー付きのライカM3が登場している。

当時、真面目なライカバイヤーの私は英文のライカプライスガイドをいつも携帯していたので早速製造番号を調べた。エム型ライカの刻印の形が変なので最初からカナダ製であろうと思っていて製造番号を確認したらその通りであった。

トムに東京で会ったのはそれからそんなに時間が経っていなかった。彼はその時東京で事業展開をすると言うので私も手伝っていろいろなメディアにこのラピッドワインダーのことを書いた。トムが来日した時点で200本は売れたようである。

そのお礼というわけでもないがトムは私にオリジナルのマグナムバージョンのワインダーをくれたのである。これは市販品とはかなり要素が異なっている。それから彼と親しくなってずいぶん一緒に飲んだり東京を徘徊したりした。ただしこの20年ほどはお付き合いがなかったので今回の訃報に驚いた。

彼がラピッドワインダーを作ったのは単純明快であって、スウェーデン出身の彼はプレスフォトグラファーとしてライカMPを使っていたのである。それについていたライカビットがある日壊れたので彼は自分でそれを作ると言う壮大な計画を立てたのであった。

自分で機械で工作するわけではなくて専門の工業団地がカナデンにあるのでそこにパーツを依頼してそれを組み立てたのである。

話を聞いて面白かったのはその金属の精密機械工作の会社というのが工業団地の中にあるのだが、それは下請けでNASAの宇宙服の腕のジョイントなどを作っているのである。

ある日依頼した部品に関して制作の担当者からお詫びのメールが来たそうだ。それは精度を間違えて何ミクロンほどサイズが違ってしまったと言うのである。
宇宙服のジョイントと言うのはそのぐらいの凄い精度で出てきてるものらしい。

でもライカの場合はその程度の誤差は何も問題ないであろう。エイブラハムソンのラピッドワインダーは実に美しい仕上げであって表面がすべすべしている。
ライカの真鍮のスタンプ製造のやつのほうが安っぽく見えるのは皮肉である。それはエイブラハムソンのワインダーが金属の精密な削り出しであるからだ。

最初のプロトタイプをマグナムのフォトグラファーに使ってもらってそのマグナムフォトグラファーはどこかの砂漠地帯で過酷な取材をしたそうである。それでサービスのためにワインダーが戻ってきて分解したら中から砂漠の砂がスプーンいっぱい分出てきたと言う話でこれは本人から聞いた。

このラピッドワインダに関して非常に謎なのはオリジナルのライカビットよりもその高さが五ミリ高いということである。なぜそんなことになったのかついに聞き漏らしてしまった。

私の知り合いの建築家でその5ミリほど背の高いラピッドワインダーを愛用の紳士がいるが彼のニックネームが「五高酷」ごこうこく、なのである。
要するに高さが5ミリだけ高いのでひどいと言う意味のあだ名なのである。その建築家はエイブラハムソンに特別に依頼して既に製造中止になっているはずのライカエムm2用のラピッドワインダーも特注したそうだ。

トムエイブラハムソンの功績は、ライカがフイルムであった最後の時代にそのフイルム巻き上げのダイナミズムと楽しみを世界に広げたことになる。
今のデジタルライカエムの最大のつまらないポイントはトムのラピッドワインダーがつけられないことにある。

この間も私がラピッドワインダーをつけたライカを持っていたらライカ女子が、それなんですかと聞いてきた。
「フイルムを迅速に巻き上げる道具です」と説明しても彼女はデジタルライカしか知らないからそれが何だかわからないのである。
トムが地上を去ってそういう悲劇が世界に起こりつつあるのだ。

エイブラハムソンと彼のラピッドワインダーが主の御心のままににあらんことを!
アーメン!!!


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