秋の東大前
東京駅北口から東大前を通って荒川土手まで行くバス路線が好きな事は度々書いている。
本郷通りのこのセクションが実に不思議なのは私がバスに乗る時間帯にはいつもガラガラであることだ。これは数年前に撮影したのだが銀杏が色づいて綺麗だ。
吉田健一の戦前のこの界隈を記録した話によれば当然のことながらもっと鬱蒼とした森林のような茂みであってその下におでん屋台がたくさん軒を並べていたそうである。
吉田健一は家のそばにたくさん酒屋もあるのにそこまでわざわざ円タクを利用して出かけたらしい。それはそれで文豪のその時代の行動が分かって面白いのだが。私が注目しているのは当時のタクシー乗合自動車にはこれは1円で東京市のどこまでも行けたという時代の話であるが、その多くは外国製の車であってしかもクルマにはヒーターが装備されていなかったという事実である。
吉田健一がたまたま使っていた乗合自動車がそうであったのかどうかは分からないが東大のまっすぐな通りを走っているときに私はいつもそのことを思い出す。
その先の向ケ丘界隈の本郷通りのまっすぐなのも非常に好ましくて、私の東京ニコン日記で1,960年代後半にやはり都バスでこの界隈を都心に向かって走っているときの車窓からの風景がある。これも路上には人影もなければ都電も走っていないし車の姿がない。その写真集を見ているときにこれは60年代であるから車の数が少ないのだと思っていた。ところが現代に特定の時間帯を走るとやはりここはグレーのアスファルトだけが延々と広い空間なのである。そういう東京が好きだ。
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