前世紀の極地探検隊の居室にあこがれる
引っ越しから1週間が経過しようとしているが、室内は相変わらずの倉庫状態である。
日本の著名写真家の家に行ったら、立派な応接セットのブラックレザーのソファに座らされて落ち着かないことがあった。
仕事場のヒルズのゲストルームも「身過ぎ」の感じがあって、どうも革のソファというのは、そこに美女のおしりがのるのなら許せるが、そういう場所でお金のやりとりの打ち合わせをするのは、性に合わない。
狭い質素でしかも頑丈な室内でそこに積み上げられた、トランクや19世紀的な観測用具に取りかこまれた探検隊員の古い写真は、あれは南極か北極かは分からないが、」大きめのトランクを机にして何かものを書いているところであった。そういうのがダンデイの極地というのであろう。
そういう理想の探検の環境にはかなわないが、この極東に越年してきたわれわれは確かにそれぞれ、一人一人が「勇敢」な冒険家には違いない。
我が家がそのような探検のシエルターであると認識するのは、なかなか都市を歩行する者としてわくわくすることなのである。
さしずめ、まだ金属のハードケースとか、雑多な雑嚢などが高く積まれている間に、その探検家気分を味わうつもりだ。あるいはアメリカの都市部には、ぞの実態は知らないが、引っ越パーテイなるものがあって、まだ荷ときをする前に親しい友人を招いて缶ビールなんかやるのも、気が利いている。
この季節なら新居(というのもおこがましいが、前とまったく同じの間取りの川向きの角部屋)でバルコニーから隅田川を見ての一献も興がある。
そう言えば、10年以上前には、「名月やここ月島の佃亭」などと、其角を真似た色紙を書いてそれを看板にして、気のおけない友人を招いたこともあった。坂崎さんなどとその勢いで近所に飲み直しに行ったりもした。
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